聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「どうぞ、登坂会長」
 
 天下の和泉グループの御曹司に酌をされ、登坂はおおいに上機嫌になった。

「うまい! ほら、十弥君も飲んで、飲んで」
「えぇ、いただきます」

 かなり強い日本酒をふたりはまるで水のようにぐいぐいと喉に流しこんでいく。酒に弱い玲奈はこの匂いだけでも酔いそうだ。

「十弥君、強いねぇ。うちの里崎もイケる口なんだよ、なっ」
「は、はいっ」

 秘書の里崎は登坂に促され、慌てたようにおちょこを空にした。察するに、彼は「俺の酒は飲めないのか」というような古い言葉を口にするタイプの人間なのだろう。
 そして、玲奈の恐れていた事態がとうとうきてしまった。登坂は玲奈のグラスに目をとめると、ダメ出しをはじめた。

「ん~。君の飲んでるやつ、こんなのは水だよ、水! ほら、和食には日本酒。そんな基本的なこともわからんのか」

 登坂の発言はあながち間違いでもない。玲奈のグラスに入っている蜂蜜色の液体は梅酒風の梅ジュースだ。事前に店にアルコールを抜いてくれと話を通してあった。
「持病の薬の関係で……」といういつもの言い訳をしようかと思ったが、おそらく登坂のような人間には通用しないだろう。覚悟を決めて一杯くらいは付き合うかと玲奈が登坂の差し出すおちょこを受け取ろうとすると十弥がそれを制した。
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