天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
「聡悟」
俺は机の陰から立ち上がり、ふたりに近づいていく。望月さんはぎょっとした顔をしたが、聡悟は動じることなく、俺を見つめて不敵に微笑んだ。
「盗み聞きとは趣味が悪いな」
「こんな場所で逢引する趣味がある奴に言われたくない」
「人聞きの悪いことを言うな。彼女とはただの遊びだよ。僕は絢美を愛している」
聡悟の口から〝遊び〟という単語が飛び出した瞬間、望月さんの顔が強張り、彼女はうつむいてしまう。
苦手だった彼女すら気の毒になる聡悟の言い草に、ますます怒りが募る。
「もう、お前の口から出る言葉は信じられない。絢美に会って、すべて打ち明ける」
「残念ながら絢美の中でお前の信用は地に落ちているから、真実を告げたところで信じてもらえる確率は極めて低い。それでもいいならご自由に」
自信にあふれた言い方から察するに、聡悟は絢美にもでたらめを吹き込んでいるらしい。
実の兄弟なのに、どうしてそんなに俺を敵対視するのか。怒りの中に深い悲しみを感じながら、俺はなにも言わずにカンファ室を出た。