天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

『大人になったら父さんの会社を手伝ってくれ』と父に幼い頃から言い聞かされていた私は、もし働くなら、店に並べる商品を自分のセンスで決められる、バイヤーの仕事をしてみたいとひそかに憧れていた。

 いきなりは無理だろうけれど、店頭で接客をしながら客層や流行について学び、商品知識も増やして、いつかは……と。

 しかし、そんな私を待っていたのは、なんともそっけない現実だった。

『貴船のせがれと結婚したら、医者として忙しい夫を支えるためにどうせ仕事を辞めることになるんだ。絢美は替えの利く事務職をすればいい』

 そんな父の昭和じみた価値観に逆らえず、配属先は総務部に決まった。私を寿退社させる気が見え見えの人事に気落ちした私は、食欲不振にも陥った。

【結婚も仕事も自由に選べない人生って、悲しくない?】

 入社直後、私はつい、勇悟にそんなメッセージを送った。相談相手を聡悟くんではなく勇悟にしたのは、私の気持ちがとっくに勇悟に向いていたからだった。

 勇悟は当時、心臓血管外科医を目指す専攻医で多忙だったはずだけれど、数日後の夜になんとか時間を作って私に会ってくれた。

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