天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
食欲のない私を気遣った彼が選んだ店は、中華街にある台湾粥と点心の店だった。鶏だしとショウガの利いたシンプルなお粥を、勇悟が土鍋から茶碗によそってくれる。
『親父さんも絢美をかわいがるあまりに、つい過保護に仕事や結婚相手まで面倒見てくれてるんだろうけど……ま、絢美の気持ちを無視してるっていえばそうだよな』
『うん……』
浮かない顔をしてただ頷いた私に、勇悟は茶碗を手渡す。
しかし私が一向に食べようとしないからか、勇悟は立ちのぼる温かい湯気の向こうで、再び話しだした。
『俺だったら真っ向から喧嘩するかもしれないけど、絢美の性格上、それはできないよな。だったら仕事のことに関しては、今与えられている職務をまっとうしながら、独学で勉強するってのはどうだ? バイヤーって、試験や資格があるわけじゃないんだろ? 時間に融通の利く事務職の立場を逆に利用して、平日の夜は親父さんに隠れて商品の勉強をする時間にして、休日は店に出向いて客層の調査をする。そうまでしてバイヤーになりたいっていう絢美の情熱を知れば、親父さんも希望を叶えてくれる気になるかもしれない』
今の自分の職務をまっとうしながら、父に隠れてバイヤーになる努力をする……。自分では思いつかなかったやり方だけれど、父に正面からは逆らえない私にとても合う方法な気がした。