天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
悪い想像ばかりが膨らみ黙り込んでいると、聡悟くんが静かに話しだした。
《ねえ絢美。本当はこんな風にプレッシャーをかけるつもりはなかったけど、まだ迷っているようだから伝えるよ。うちでは僕だけじゃなく、父も母も本当に、絢美がお嫁さんとして貴船家に来てくれることを楽しみにしてる。子どもの頃からの付き合いだから、両親も絢美のことを実の娘のように思っているんだ。きっと結婚してからの関係もうまくいく。だから、どうか前向きに考えてもらえないかな》
そうだよね。結婚は当人同士の気持ちも大事だけれど、家と家とを結びつける意味合いも濃い。とくに聡悟くんのような、大病院の院長となるような人が相手ならなおさらだ。
もう、私はこの流れに身を任せるしかないのだろう。聡悟くんと彼の仕事のため、お互いの両親のため。勇悟への未練がましい想いは断ち切って、聡悟くんと結婚した方がきっといいのだ。
「……わかった」
《えっ?》
「心の準備、しておくね。婚姻届を書く」
《絢美……。ありがとう》
噛みしめるようにそう言った聡悟くんの声を聞き、彼が心底ホッとする表情が目に浮かんだ。
聡悟くんがこんなに喜んでくれている。私の決断は間違っていなかったのだ。
そう自分を肯定しながらも、長い間溶かされる日を待っていた恋心を捨てなければならなくなった私の胸は、切なさで震えていた