天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

 すう、と息を吸ってペンを握り直し、氏名の欄にペン先を落とそうとした、その時だった。廊下からどすどすと激しい足音が近づいてきて、襖が音を立てて勢いよく開く。

 何事だろうと視線を上げた瞬間、目に飛び込んできたのは、ずっと恋い焦がれていた勇悟の姿だった。私は頭が真っ白になり、声も出せずにただ彼を見つめる。

 パーカーにブルゾン、ブラックデニムというラフな格好で、手には小さめのボストンバッグを握っている勇悟。

 ずっと短めだった黒髪が伸びて、中央で分けた前髪から、鋭い瞳がのぞいている。雑誌で見た写真より、少し痩せているだろうか。けれどそれが彼の大人っぽさを引き立てていて、以前より何倍もカッコよくなっている気がする。

 もしかして、カナダから帰ってきたの? どうしてこのタイミングで?

「これは驚いたな。突然どうしたんだ、勇悟。もしかして、僕と絢美の結婚を祝うために、慌てて帰ってきてくれたのか?」

 聡悟くんが穏やかに言って、私の肩をそっと抱いた。反射的に体がこわばり、どんな顔をしていいのかわからなくなる。

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