天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

 しかし、ひと月後に高校卒業を控えた二月。絢美が将来選ぶのは俺ではなく、双子の兄である聡悟だと気づかされる出来事があった。

 中等部と高等部の校舎のちょうど間に、芝生が敷き詰められ花壇やベンチが置かれた中庭がある。そこを通りかかったら、こちらに背を向けてベンチに座る絢美と聡悟を偶然見かけた。

 なんの話をしているかわからないが、絢美は聡悟がなにか言うたびにはにかんだように笑っていて、その笑顔にきゅっと胸が締めつけられる。気がつけば、俺の足はふたりの方へ向かっていた。

 そして、声をかけようとした瞬間――。

『お願い。聡悟くん、付き合ってほしいの』

 緊張気味の絢美の声が耳に飛び込んできて、俺の足は棒のように動かなくなった。

 付き合うって……どういう種類の、だろう。勉強か? それとも買い物の荷物持ちとか?

 ぐるぐるとそんなことを考えていると、聡悟の瞳がふと俺の姿をとらえた。しかしすぐに絢美に向き直った聡悟は、優しく微笑んでこう言った。

『いいよ。僕でよければ』
『ありがとう。じゃあ、日曜日って空いてる?』
『ああ。絢美のためなら無理やりにでも空けるよ』

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