天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

 急に視界が晴れたような気分になった俺は、スマホをポケットに突っ込み、医局を飛び出す。

 そして病院を出ると、同じ敷地内にある大学の研究棟に急ぎ、俺の研修を受け入れる際、大学に口添えしてくれた教授を訪ねた。

 当初の予定では来年の三月までだった研修を、早めに切り上げたい。そうしなければ一生後悔するのだと息巻いた俺に、教授は優しかった。

「貴船先生は素晴らしい治療成績と論文を残し、大学病院の発展に貢献してくれた。急な帰国は残念だが、関係者には私から説明しましょう」
「教授……。ご無理を言って申し訳ございません。ご理解いただき、感謝します」

 俺はそれから一週間弱という短い期間で、急ピッチで帰国の準備、仕事の引継ぎを済ませた。なにもかも、絢美ともう一度向き合うためだ。

 強い決意を胸に携え、俺は家族会議の時間になんとか間に合うよう、日本行きの飛行機に乗った。


 自分をごまかすのはもうやめる。俺は絢美が好きだ。


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