天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

 その貴船院長と、食品の卸売販売会社『佳味百花(かみひゃっか)』を経営する私の父とは古くからの友人であり、子ども同士を結婚させようというのも、彼らの思いつきだ。

「ねえ、勇悟が院長になる可能性はないの?」

 廊下を歩く途中、なにげない雰囲気を装い、母にそう聞いてみる。

 勇悟も聡悟くんと同じ心臓血管外科医で、三年前に専門医の認定を取ってすぐカナダのトロントにある大学病院に臨床留学し、現在も研修を続けている。

 医師の中でも留学資格を得られる者はひと握りだそうだが、研修医時代から〝鬼才〟と評されたオペの腕と、猛勉強により培った英語力を買われ、勇悟はすんなりと留学を叶えた。

 以来、彼とは顔を合わせるどころか、連絡すら取っていない。けれど、留学も将来貴船総合病院の院長になるための修行の一環で、そろそろ日本に戻ってくるつもりなのではないかと、わずかな望みを抱いてしまう。

「なくはないでしょうけれど……帰国の予定も聞かないから、本人にその意思がないんじゃないかしら。勇悟さんは聡悟さんと違って、経営に携わるより現場主義という感じもするしね。なによ絢美、もしかして勇悟さんが気になっているの?」
「べ、別に、聞いてみただけ。そろそろ離して? お風呂に入りたいから」

 母の腕を振りほどき、逃げるように階段を駆け上がって二階の自室に入った。

< 7 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop