天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

 彼が職場の看護師と逢瀬を繰り返しているのが本当なら、私の妊娠を喜んでくれるとは思えない。

 だけど、親同士が仲のいい関係だ。ずっと黙っていることもできない。

 聡悟くんは黙って私のつぶやきに耳を傾けていたが、ふと私の顔を覗いて言った。

「話す必要、ないんじゃないか? 僕が父親ということにすればいい」
「え……?」
「僕と勇悟は一卵性双生児だ。子どもの顔は当然どちらにも似るだろうし、遺伝子を調べても、どちらが父親か判断はつかないだろう。絢美を助けられるなら、僕がこの子の父親になって、きみとこの子を守る」

 突然の申し出に、頭が真っ白になる。勇悟との子を、聡悟くんと育てる?

 確かに、双子だから遺伝子的には問題ないのかもしれない。だけど、そういう問題じゃない。

 この子を授かったのは、私が勇悟を愛したからだ。勇悟の方に気持ちはなかったとしても、少なくとも私は……本気で、愛していたから。

「ありがとう、聡悟くん……。でも、あなたにそこまでしてもらえない。勇悟に話して、わかってもらえなければ、ひとりで育てる。もちろん、大変だとは思うけれど」
「絢美……」

 聡悟くんはそれ以上なにも言わず、きっと私の意思を尊重してくれたのだと思うことにした。

 それより、両家の親にはなんと説明しよう。いっそ、勇悟でも聡悟くんでもない人との子ということにして、みんなの前から姿を消す?

 いろいろなパターンを考えてみるけれど、どれも現実味に欠けていて、簡単に答えは出そうにない。

 そのうちタクシーの揺れに酔ってきて、私はハンカチを口もとに当てながら、自宅に着くまでの間、目を閉じていた。

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