天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

『あなたの勝手な打算で、絢美ちゃんを振り回さないでください。彼女はずっと一途に聡悟さんを想い続けているんです』

 彼女が貧血のような症状を訴えたのは、俺とふたりきりで話がしたいが故の仮病で、俺が聡悟ではなく双子の弟であることにも気づいていた。

 数日前に絢美から俺の帰国の話を聞き、戸惑う彼女を見て気の毒になったそうだ。

『あなたが欲しがっているのは絢美ちゃんではなく、貴船総合病院の院長の椅子。客観的に見れば明らかな事実なのに、絢美ちゃん、全然気づいていなくて』

 柿田さんは怒りを堪えたような声でそう言った。

 同僚と遊園地を訪れたのはまったくの偶然らしいが、俺と楽しそうに歩く絢美を見ていたら、黙っていられなくなった。普段から姉妹のように仲良くしている部下が不幸になるのは見ていられない。

 柿田さんはそんな思いから、もうひとりの同僚・桃瀬さんと結託し、絢美をこの場から連れ出したらしい。

 正直、俺は院長の座には興味がなく、彼女はなにか誤解しているようだと思ったが、それより気になったのは〝絢美が聡悟を一途に想い続けている〟という発言だった。

< 92 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop