腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

バスタイム

結局何が何だかよく分からないまま、私は素っ裸にバスタオル一枚を巻いてお風呂用の椅子に座らされた。たぶんここに至るまでに色々見られた気がするけれど為す術もない。

目の前の鏡に映るのはにんまり顔の鷹峯(たかがみね)さん。逃げ場がないぞ、どうしてこうなった。

「はい、じゃあまず頭から洗いますよ。右手は上げておいて下さい」

「は、はい……」

わしゃわしゃと丁度良い力加減でシャンプーされる。まるで美容院みたい。本当に何やらせても器用なんだな。

鷹峯さんは美容師さんみたいにシャンプーとトリートメントを丁寧にして、それから巻いてあったバスタオルに手をかけた。

「あ、ちょっと……!」

「身体もちゃんと洗わなきゃ駄目でしょう?」

いやそりゃそうなんだけれども。

何だかもう色々と諦め始めて、私は黙ってされるがままに身を委ねる。浴室内は湯気で(けむ)って細部までは見えない。

鷹峯さんはどかしたバスタオルをちゃんと身体の前側にかけたままにしてくれて、泡立てたボディソープで背中を洗い始めた。

ああ、きっとセフレの女の人達にも、こうやってセックス以外の時間まで甲斐甲斐(かいがい)しく大事にしてるんだろうな〜。やっぱりモテる男は違うよな〜。

「……おっと手が」

私がそんな邪推(じゃすい)をしていると察してか、鷹峯さんの手がするりと脇の下から滑り込んで私の腹部に触れてきた。

「んぁっ……!?」

「……おや」

不意打ちにぞくりと肌が粟立(あわだ)って、鼻にかかった甘い声が漏れてしまい思わず慌てて口を手で塞ぐ。

「何だか思っていた反応と違いますねぇ……誘っているんですか?」

「ちょっ……ダメっ……」

身体の上を鷹峯さんの手が滑る。首に、お腹に、太腿に。ああもう、そんな際どい所まで駄目だってば。

「んんっ……やぁ……」

なにこれなにこれ。すごく甘くて、フワフワした気持ちになる。やだ、こんな感覚、知らな……。

「う……なんか、クラクラ、するぅ……」

「えっ?」

私は後ろにいた鷹峯さんの胸に背中から倒れ込む。素っ裸だけど、泡だらけだけど仕方ない。鷹峯さんのせいだもん。

「あらら……逆上せちゃいましたか」

そう言って笑って、鷹峯さんは私の身体にシャワーをぶっかける。うん、あわあわだからね……って相変わらず容赦ない。
< 34 / 110 >

この作品をシェア

pagetop