腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
そして身体を新しいタオルで拭いて包むと、そのまま私を抱いて浴室をあとにし、裸のままの私をベッドへ寝かせた。

「すみません、やり過ぎました。大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶじゃないれす〜……」

ふかふかのベッドに顔を埋めて、グルグルと回る気持ち悪さをやり過ごす。鷹峯さん、油断も隙もありゃしないぜ……。

「綺麗な背中ですねぇ〜」

「んんっ……」

ほら、また!! この人今背中をつつつーってした!!

「ちょっと鷹峯さん……ほんとにっ……」

「すみません、やっぱり私も男なんですよねぇ……ちょっとムラムラしちゃいました。体調良くなったらこれ着てください」

潔良(いさぎい)いな。格好良いから見てられるけど言ってることはだいぶ変態だよ?

私に布団をかけ、それからぽいぽいっとパジャマを渡される。さっきのふりふりブラ&紐パンTバックも……うわぁぁぁぁぁ死にたいっ!!!!

「私もびしょびしょになっちゃったので、シャワー浴びてきますね」

鷹峯さんはさっさとお風呂に行ってしまう。

「助かった……」

〈はぁ、あんたさぁ……せっかくチャンス作ってあげたのに情けないわね。あんまり悠長にしていられないわよ。私がこのまま取り憑いてたら、自分がどうなるか分かってんの?〉

不意に春夏が話しかけてくる。

「どうって……どうなんの?」

あまり身体には良くなさそうだけど。かと言って、春夏は話も通じるし、これ以上何か困ることも起きそうにない。

〈あんた……このままだと生気吸い取られて、死ぬわよ?〉


死。その不吉な言葉に、私の胸が鳴る。

「え……、死ぬ?」

〈当然でしょ? 現にあの部屋に住み始めてから、あんたはどんどん体調が悪くなった。私が意図的に悪さをしなくたって、干渉するだけで生命力を奪われるの。このまま死んでも良いの?〉

「そ、それは困る……」

〈だったら、私に協力なさい。鷹峯さんと結ばれるの〉

「む、結ばれるって……」

結ばれるというのは、気持ちが? それとも春夏が喜ぶように、分かりやすく身体の話? 何となく、後者なような気がしなくもなくも……。

「ま、待ってよ……気持ちは分かるけど、だからってむ、結ばれるって……そういうことは、お互いの気持ちが……」

〈あーはいはい、御託(ごたく)はいい〉

御託って姉さん……。

〈とにかく、私があなたの身体を使って鷹峯さんを落とす。その時は邪魔しないでよね〉

「いやいやいやいや」

有無を言わさない春夏に、私は思わず言い返す。

「大体さぁ。元はと言えば全部春夏のせいじゃん。私の具合が悪くなったのも、あの優しかった航大(こうだい)豹変(ひょうへん)したのも! それなのに、何で私があんたの言うこと聞いて、知り合ったばかりの人と恋人ごっこしないといけないわけ? 勘弁してよ……」

〈……〉

(まく)し立てる私に、春夏は何も言わなかった。

「はぁぁぁぁ〜もう〜……」

あ〜なんか疲れたな……。気持ち悪いのが治ったら、服着て早く寝よう……。

そう思って、少しだけ目を閉じた。




それなのに。






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