腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
私がリクエストした場所は近場のショッピングモールだった。何の変哲(へんてつ)もない、ありきたりな場所のはずなのに、鷹峯さんは一度も来たことがないそうでファストブランドの安さに驚いている顔が印象的だった。

「こんなに安いなら、たくさん買えますねぇ」

そう言って、鷹峯さんは私が手に取った服を端から買い物かごに放り込んでいく。

「ちょ、ちょっと鷹峯さん、いくら何でもそんなに買ってもらうわけには……」

最初は一枚か二枚買ってもらえれば助かるなと思っていたのに、気付けばかご一杯に服が積まれている。

「良いじゃないですかこれくらい。普通の服の一枚分くらいの値段ですよ」

「普段どんだけ高い服着てるんですか」

鷹峯さんにおいては普通の概念を今一度問いただしたい。

「まぁまぁ、ほら、下着も買うんでしょう?」

そう言って鷹峯さんが指さしたのは、パステルでフェミニンなエントランスの女性下着を売っている店舗。

「ふぇっ!? いや、あの」

「どうしたんです? さぁ、入りましょう?」

くすくすと楽しそうに笑いながら、鷹峯さんが私の手を引いた。さてはむっつりすけべだな?

〈きゃっ、手ぇ繋いじゃったぁ〜!〉

春夏が黄色い声を頭に響かせる。そんなことに構っている余裕もなく、鷹峯さんは手を繋いだままどんどん店の奥へと進んでいく。

「ほら、こんなのが好きなんじゃないですか?」

鷹峯さんが手に取ったのは、派手な色と柄の面積が小さいやつ。私はそれを見て顔に熱が集まる。

「そ、そういうのは別に趣味じゃないんです! 元彼の! 元彼の趣味なだけでっ!」

ブンブンとちぎれそうになるくらい手と顔を振る私に、鷹峯さんが益々楽しそうに口角を釣り上げた。

「じゃあ、貴女はどんなのが好きなんです?」

「え? えっと……」

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