腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
(ねぇ見て、めちゃくちゃイケメンだよ〜。モデルかな?)

(でも女の方ブスじゃん……釣り合わなさ過ぎ)

(女が物凄い金持ちなんじゃない? 絶対カップルではないよ)

(言えてる。体目当てにしては貧相過ぎるしね〜)


心無い言葉に、胸がずきりと痛む。何より私のせいで、鷹峯さんまで色々言われていることが一番堪えた。

〈何あいつら。聖南の可愛さが分からないなんて目ぇ節穴? 気にすることないわよ〉

「う、うん……分かってるよ……」

私は誰にも聞こえない声で、そっと呟く。

そう、分かってる。春夏が私に気を使ってそう言ってくれていることも、あの人達の言うことが事実だっていうことも。

「……」

聞こえているだろうに、鷹峯さんは何も言わない。

鷹峯さんだって嫌だよね。だって鷹峯さんは何も悪くない。イケメンで頭が良くてお医者さんで、彼はただ変な患者の面倒を見ているだけに過ぎない。お金持ちなのだって私じゃなくて鷹峯さんの方なのに。

「すみません鷹峯さん、私……」

何だかとてつもなく申し訳ない気持ちになって、私は鷹峯さんに謝るしかできない。隣を歩くのが恥ずかしい。

「……何故貴女が謝るんです?」

鷹峯さんは怒ったようにそう言うと、それ以上は何も言わずに私の手を掴んだ。

「あっ……」

少しだけ早歩きになった鷹峯さんに引っ張られながら、私達はその場を去る。


(あ、手ぇ繋いでる……)

(やっぱり付き合ってるのかな……女の趣味悪ぅ……)


違うでしょ。これ以上鷹峯さんのこと悪く言わないでよ……。



しばらく歩いてあの人達から離れたところで、私は鷹峯さんの手を振りほどいた。

「……ちょっと、お手洗い行ってきますね!」

私はなるべく明るい声と笑顔でそう告げて、ladiesと書かれた入口に向かう。

鷹峯さんがどんな顔をしているのか、怖くてみることができなかった。

< 48 / 110 >

この作品をシェア

pagetop