腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

転機

「た……ただいま……」

最近少しずつ良くなっていた体調が、四月の頃と同じかそれ以上に悪くなってしまった。

「っ……気持ち悪……」

なんとかバイトは終わらせてきたけど、とてもじゃないがご飯なんて作れそうにない。仕方なくバイト先でお惣菜を買ってきたんだけど、お惣菜コーナーで買い物をしているときですら匂いで吐きそうなのを懸命に堪えながら帰ってきた。

家に着いた途端気が緩んだのか、込み上げた吐き気に耐え切れず私はトイレに駆け込む。

「うぅ……なんか悪いもんでも食べたかな……?」

朝からほとんど何も食べられなかったので、吐くと言っても胃液しか出てこない。私はトイレから這うようにしてリビングに向かう。

〈ねぇ聖南。あんた生理来てないんじゃない?〉

「え……?」

そういえば、ここ最近来ていないような気がする。かなり痩せたから止まっちゃったのかなって思ってたんだけど……。

「まさか……」

生理が来ない。それを聞かれる意味が分からないほど鈍くはない。

「いやでも……私達ちゃんと避妊してるしな……?」

鷹峯さんはさすがセフレをたくさん抱えていただけあって、そこら辺は割ときっちりしている。でもそういう行為をしている以上、可能性がないとは言いきれない。

「一応検査薬、使ってみるか……」

過去に一度、航大との行為で避妊に失敗して二本入りのものを買ったことがある。私はこちらの部屋に荷物を運んだ時にまとめておいた小物類を入れた袋からそれを探し出し、再びトイレへと向かう。

大丈夫、だってちゃんと避妊してたし。

そう思うけど、いざとなると結果を待つ僅かな時間がものすごく長く感じた。祈るように目を閉じて結果が出るのを待つ。

〈そろそろ良いんじゃない?〉

春夏の声に、私は恐る恐る目を開けた。

お願い、どうか陰性であってほしい。

その私の思いは、無惨にも打ち砕かれる。

くっきりと、二つの丸い窓の中に赤い縦線。私は信じられない気持ちでそれを手に取る。

「え……よ、陽性……てことは……妊娠っ?」
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