腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「どうしよう、ちゃんと避妊してたのに……」

病院から帰り、私は途方に暮れてマンションのエレベーターの壁にもたれ掛かる。

「もし堕ろせって言われたら……ううん、それどころか私が捨てられるかも……」

鷹峯さんは、元々セフレもたくさんいたような奔放な人だ。付き合うのは良いとしてもいざ妊娠や結婚となったら一人の人に縛られたくないと思われるかもしれない。

〈聖南、やっぱりちゃんと鷹峯さんに話しましょう?〉

「むり……どんな反応されるか怖い……」

やっとのことで玄関のドアを開け、私はそのまま倒れ込む。

部屋の明かりが点いている。倒れた私の立てた音に気付いて、早上がりで家に帰っていた鷹峯さんが出てきてくれる。

「おかえりなさい……って聖南? 大丈夫ですか?」

鷹峯さんは私に駆け寄ると、身体を抱き起こして顔を覗き込む。

「聖南……聖南っ?」

「ん……あ、た、鷹峯さん……ごめんなさい、ちょっと疲れてて……」

やばい。一瞬意識が飛んでいた。私はのろのろと身体を起こす。

「今日受診だったんでしょう。結果は? どうでした?」

鷹峯さんの質問に、私はへらりと笑った。

「全然問題ありませんでしたよ〜。順調に回復しているそうです〜」

事実、血液検査はデータ上、ゆっくりとだが右肩上がりに良くなっていた。嘘はついていない。でも、鷹峯さんと目を合わせられなかった。

「……そうですか。それにしては、最近体調が優れないようですが。美怜にも一応そのことは伝えておきましたが、何も言っていませんでしたか?」

ああ、だから美怜先生、私が妊娠しているかもと勘付いていたのかもしれない。

「本当に疲れているだけなんですよ……あ、寒くなってきたし、風邪でも引いたのかもな〜……」

言えない。

私は鷹峯さんと目を合わせないまま、ふらつく足取りでシャワーを浴びるため浴室へと向かった。

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