ファーストソング

慎太郎は俺の背中をポンポンと慰めるように叩く。


「俺には分かんねぇぐらい辛いんだろうけどさ、元気だせよ」
「…今は無理そう」
「あらら…。 でもさ、もし逆だったらさお前どう思う?」
「…逆?」


俺が千冬ちゃんの立場になったら…?
自分が余命幾ばくもない病気で、病状が悪化し面会謝絶、恋人に会えずにずっと寂しい想いをさせている。


「…すげぇ罪悪感かも」
「だろ?」
「どうしようもないってわかるけど、俺がもっと元気だったらって思っちゃうかも…」
「彼女もそう思ってるかもな」
「それって…なんか、すげぇやだ」
「ははは! 素直じゃん!」
「だってやだもん。 千冬ちゃんのせいじゃないのに、言葉にするのはすげぇむずいけどさ。 なんかやなんだよ」
「ならさ会えないなりにさ行動に移せばいいじゃん。 俺ら現代っ子だろ?」


慎太郎はスマホを片手にニカっと笑った。


「スマホ…。 そうだスマホがあるじゃん!!」
「はは、忘れてたのかよ」
「ありがとう! 慎太郎! 俺ちょっと千冬ちゃんに電話してくる!」
「おう! いってらっしゃい!」


俺はさっきまでの落ち込みが嘘のように生き生きして教室を飛び出した。
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