離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 思わず本音が漏れてしまい、片手で口を押さえるももう遅い。
 両親にはまだ離婚することを伝えていないが、いったいいつ言うべきか迷いに迷ってここまで来てしまった。
 彼が帰ってくる前に話しておくべきなのは分かっている。そう思った私は、意を決して母に話しかけようとした。
「ねぇ、お母さん。驚かないでほしいんだけど」
 ――その時、何やら外が急に騒がしくなって、私と母は向かい側の建物に視線を移した。
 何やら大物の来客があったのか、お手伝いさんが数人バタバタと走り回っている。
 この家は平家だけと横に長く、コの字に設計されていて、華道教室、事務所、本家実家がひとつの敷地内にまとまっている。
 声がするのは、向かい側にある事務所の方だった。
 縁側に出て見ると、応接室に向かう途中の、三十代くらいの男性が一瞬見えた。
「あら、三鷹さんとこだわ。黎人さんがいない間、従弟の慶介(けいすけ)さんが商談に来てくれるようになったんだけど、ちょっと気難しくて横暴な方なのよね。だからお手伝いさんが騒いでたのね」
「そうだったの……? 私もちょっと会ったことしかないから分からなかったけど……」
「花に対してなんの理解もないというか、色々とクレームいれられてるらしいの」
 小鞠を抱っこしながら、困ったような顔をする母。
 育児で忙しくて、仕事の話からはしばらく離れていたから、今の今まで知らなかった。
 悔しいけれど、どう考えても力関係は三鷹家のほうが上。あくまでも、うちは発注される側で、三鷹家は大口の大切なお客様だ。
 でも、だからと言って、お花を大事にしてくれない態度は許しがたい。
 私はどれほど横暴なのか様子を見に行こうと立ち上がった。
「お母さんちょっと私、話に行ってくる」
「何言ってるの! およしよ花音、気持ちは分かるけど」
「大丈夫、挨拶してくるだけだから。ちょっとだけ、小鞠のことよろしくね」
 怒りを抱えたまま移動して、商談をしている応接室まで向かおうとしたその途中――、何やらさらに騒がしい声が門に広がったことに気づいた。
 でも、慶介さんが来た時の騒ぎ方とは少し違い、お手伝いさんたちの顔は明るくなっている。
 芸能人の来客でもあったのだろうか。最近生徒さんに業界の方も増えていると聞いていたし……。
 まあ、今の私にとってはどうでもいいこと。
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