離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~

再会

▼再会 

「ちょっと、小鞠(こまり)! 危ないからそれ触らないよ!」
「だー、んまんま」
 離婚を言い渡してからあっという間に一年半が過ぎ、私は着物ではなくブラウスにパンツ姿で、畳の上をハイハイして動き回る子供を追いかけまわしていた。
 黎人さんに別れを告げてから約八か月後。元気に生まれた女の子は、“小鞠”と名付けられた。
 今は生後十か月で、つかまり立ちやハイハイができるようになった分、あちこち動き回って目が離せない日々を過ごしている。
 さすがに子供が生まれたことは義父母にも報告したので、黎人さんの耳にも入ってしまっているはず。
 でも、その前に離婚の話を叩きつけておいてよかった。もうすぐ彼がこっちに戻ってきて、勝手に離婚届を提出してくれるはずだ。
 私はその日を、粛々と待つしかない。
 かなり話しづらいけれど、そろそろ両親に離婚を決めたことを報告しなければ……。
 なんて思っていると、私と小鞠の部屋に、母親が子供服を持って入ってきた。
「新しいお洋服買ってきたわよ。そろそろ今着てるの小さくなってきたものね」
「お母さん、ありがとう。助かる!」
「小鞠ちゃん今日も元気でしゅねー」
 想像通り、孫をかなり溺愛してくれる母親は、赤ちゃん言葉で小鞠に笑顔で話しかけている。
 ありがたいことに家事も育児もサポートしてくれるので、母親には頭が上がらない。
 母親は新しいお洋服を小鞠に当てがいながら、しみじみと話し始めた。
「黎人さんがいない間、よく頑張ったわね。来週には戻ってくるんでしょう?」
「え!」
「……えって、まさか忘れてたの?」
 母親によって今初めて彼の帰国日を知った私は、思わず声をあげてしまった。
 母親が不審な目でこっちを見ているので、慌てて「曜日感覚、育児で飛んじゃってた」と笑ってごまかす。
 連絡は一切断っていたので、本当に初耳の情報だった。
 そうか。じゃあ今月中には離婚が成立するかな。
 なんて他人事のように思いながら、可愛い小鞠をあやしつつ母の言うことを話半分に聞く。
「黎人さん、一度もこっちに戻れず、小鞠の可愛い時期を見られなかったのは寂しいでしょうけど、ようやくリアルで小鞠に会えるのね。さぞ嬉しいことでしょう……」
「どうかな、黎人さんは父親になった実感わいてないと思うけど」
「まあ、なんてこと言うの花音!」
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