離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 彼は冷たい瞳のまま私に近づくと、突然グイッと顎を掴み瞳をまっすぐ見つめてきた。
「一年半ぶりに会った夫に……、何か言葉はないのか」
「お、おかえり……なさいませ……」
 おぞましいほど美しい顔が、目の前にある。
 気怠げなのに、どこか色気のあるその半月型の瞳に見つめられると、どうしてか思考が停止してしまう。
 私たちは見つめ合ったまま、お互い次の言葉を待っていた。
 どうしよう。もう二度と会うことはないと思っていたから、言葉が出てこない。
 困り果てていると、どたどたと何か激しい物音が近づいてくるのを感じ取った。
 まずい、物凄く嫌な予感がする……。
 予想通り、再び障子が開くかと思うと、ぶすっと小さな可愛らしい指が顔を出した。
「え……」
 黎人さんはさすがに困惑したように小さな声を漏らすけれど、私は瞬時に状況を察して黎人さんを押しのけ入り口に向かった。
「小鞠、ダメ入ってきちゃ……!」
「だあー」
 叫んだ瞬間、その小さな女の子は無邪気に応接室に入ってきてしまった。
 数秒後、母親は後ろから慌てた様子で小鞠を追いかけてきた。
「小鞠ちゃん探したわ! ちょっとお手洗いに行った隙にこんなところまで……あっ、障子に穴空いてる! って、あら、黎人さんもういらしてたの!?」
 焦ったり怒ったり驚いたり……と、百面相している母親に、黎人さんは深々とお辞儀をしている。
「突然で驚かせて申し訳ございません。仕事が早く終わったので切り上げてまいりました」
「そうだったの! 嬉しいサプライズね。……やだ、ってことは念願の親子水入らずの瞬間ってことよね、今。私、退散するわ。またあとでね黎人さん」
「あ、いえ、私もそろそろお暇しようかと……」
 黎人さんの言葉を全く聞かずに、お母さんは上機嫌でその場を去っていった。
 私はまた障子に穴を空けようとしている小鞠を抱きあげ、気まずい空気に耐えながら部屋の端に座り込んだ。
 どうしよう。子供に会わせる気はまだなかったのに……。突然すぎて、気持ちの整理がつかないよ。
 黎人さんは、そんな私の心境を知ってか知らずか、じっとこちらを見ている。
 そうして、ゆっくりと私たちの方に歩み寄ってきた。
 こんな空気の中、小鞠と会わせてしまうなんて、最悪だ。本音を言うならば、できれば一生会わせたくなかった。
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