離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 母親はもう少し若々しいコーディネートがいいと言ってきたけれど、自分が好きな色で行きたいとなんとなく思ったのだ。
 先方が指定した料亭で父母と一緒に待っていると、ほどなくして三鷹家の三人が現れた。
「いつもお世話になっております。この度はよろしくお願いいたします」
 部屋に来て早々、深々と頭を下げる黎人さんに、私も指をついて頭を下げる。
 顔をあげると、ようやく初めて黎人さんと目が合った。
「花音さん、ちゃんとお話しするのは初めてですね」
「は、はい……。葉山花音と申します。よろしくお願い致します」
「三鷹黎人です。いつも美しいお花をありがとうございます」
 顔ひとつひとつのパーツが、全て美しい配置になっている。彼の顔を見てまず、そんなことを思った。
 冷たさと色気を兼ね備えた切れ長の瞳に、滑らかに整った肌。片方だけ耳にかけられた黒髪がセクシーで、スーツ姿でも大人の色香を十分に醸し出している。
 こんな人と、まだ二十歳の私が、婚約をしようとしているだなんて、何だか信じられない。
 他人事のように彼の顔をぼうっと見つめていると、父に「見惚れすぎじゃないか」と笑われた。
 私は恥ずかしくなって、すぐ目を逸らし赤面しながら俯く。
「花音さんもお着物がお似合いで。さすがセンスがいいわ」
 黎人さんのご両親が私の着物のことを褒めてくれたので、「ありがとうございます」と頭を下げる。
 緊張して、さっきからずっと頭を下げている気がする……。
 同じような言葉しか返せていないし、つまらない子だと思われたらどうしよう。
 そんな不安が頭に過ぎっていると、黎人さんの優しい声が頭上に振ってきた。
「本当に、よくお似合いです」
「い、いえ……っ」
 彼にとって、七つ下の私は、妹程度にしか見えていないだろう。
 それなのに、こんなお世辞を言わせてしまい申し訳ない……。
 もしこのお見合いが失敗したら、葉山家と三鷹家が築いてきた今までの関係性が崩れてしまうかもしれないんだ。
 そう思うと、ますます緊張しきってしまい、だんだん具合が悪くなってきた。
 青ざめた顔で暫く両家の話や、仕事の話を薄ら笑いで聞いていると、突然黎人さんに話しかけられた。
「花音さん。外の空気でも吸いに行きますか」
「え……」
「緊張疲れしてしまって。お付き合い願えますか」
 私のことを気遣ってくれたのだろう。
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