離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 両親は「若い者同士でぜひ」とノリノリな様子。
 気分転換をしたかったのは本心なので、私はお言葉に甘えて、黎人さんが差し伸べてくれた手をそっと取ったのだった。

 朱色の小さな橋を渡り、池が見えるところまで歩いた。
 池の周りには椿の花が咲き誇っていて、お花を見たら少しだけ気持ちがほぐれた。
 私の表情が少し柔らかくなったことを察したのか、黎人さんも少し安心したように目を細める。
「なかなか緊張しますね、こういう席は」
 彼に話しかけられ、私はこくんと頷く。
 会話を広げたいと色んなことを考えるけれど、七つも上の男性にどんな話題を振ったらいいものか分からない。
「庭でだけ、敬語止めてもいいかな?」
「あ、全然、お気になさらず……!」
 また、緊張をほぐすために気を遣わせてしまった。
 私はぶんぶんと手を横に振って、赤くなっている顔を隠す。
 椿の花の前に立った彼は、まるで映画から抜け出してしまった俳優のように美しい。
 黎人さんは、花を見つめながら冗談交じりのような口調で問いかけてきた。
「昔から決められていたこととはいえ、君も七つ上の男といきなり結婚しろと言われて、嫌だっただろう」
「え……! いえ、そんなことは」
「嫌だったら断ってくれていい。君の人生だ」
 たしかに、動揺はしたけれど、まさかそんなことを彼の方から言われるとは。
 いや、この縁を切られてダメージを受けるのは、うちの方なのだ。
 もしかしたらこれは暗に、もう関係性を黎人さんの代で断ち切りたいと言われているのでは……。
 そう思い顔を顔を青くしていると、黎人さんは焦ったように「断ってくれと言ってるわけではない」と補足した。
「こんな話をして悪いけど、俺は正直、結婚相手は誰でもいいと思っている。だからこの話を受けに来たんだ。今は、仕事にしか時間を割く余裕がない」
「え……」
「俺はそんな男だから、いつか君を悲しませるかもしれない。だから、よく考えて。君が縁談を断ったとしても、波風立たないように協力するから、安心していい」
 淡々とそう告げる黎人さんの表情は、とても真剣で、私のことを思って言ってくれているのだと十分伝わった。
 私の人生には、お花さえあれば、それでいい。
 彼と一緒にいたら、きっと死ぬまで華道家として生きていけるだろう。
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