離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 おろおろと焦るベビーシッターさんに心から謝罪しつつも、黎人さんが帰ってこないか内心ではひやひやしていた。
 ベビーシッターさんは、そんな私のただならぬ様子に何も突っ込めずにいる。
 無邪気におもちゃで遊んでいる小鞠を片手に抱きかかえ、私は大きなマザーズバッグを担ぎあげた。
「下にタクシーを手配してあります。そこまで残りの荷物をお願いできますと助かります」
「小鞠ちゃんのお気に入りの絵本も詰めておきますね!」
「ありがとうございます」
 ベビーシッターさんに手伝ってもらったおかげで、瞬時に荷造りが終わった。
 緊急を要するものはだいたい持ったはず。後は実家に帰れば何とかなるだろう。
 タクシーの荷台に荷物を運び込むと、ベビーシッターさんにお礼を告げて私も車に乗り込んだ。
「目黒の方までお願いいたします」
 バタンとドアを閉めると、静かに車が発進していく。
 不安そうな表情で見送るベビーシッターさんに、小鞠と一緒に手を振った。
 彼女が見えなくなってから、私はようやくふぅとため息をついて、小鞠を抱っこしながら座席に体を預けた。
「あれ……、どうしよ」
 とりあえず今できることを全て終えた瞬間、とめどなく目から涙が溢れてくる。
 車の中ではせかせかと次に何かを行動することもできなくて、瞼の裏にはさっきの残酷な映像が焼き付いている。
「ごめん小鞠、ママちょっと変で……。すぐ元気になるから」
「まーま、あうー」
「ごめんね、大丈夫だからね」
 大丈夫だと、何度も自分に言い聞かせる。
 大丈夫。私は強いから。
 元から別れると決まっていたことなのに、何を今さら傷つくことがあると言うの。
 頭では分かっているのに、心が追い付かない。
 黎人さんの考えていることが、全く分からない。
 ショックで彼の表情を見ることなんて出来ないまま部屋を出てきてしまったけれど、黎人さんはあの時どんな顔をしていたんだろう。
 ……いや、もう、彼のことを考えること自体、もう止めよう。
  早くこんな生活を終わらせたい。あの人に振り回されない毎日に戻りたい。今の願いは、ただそれだけ。
 泣いている私を見て不安になったのか、小鞠が珍しくぐずり始めた。
「ふぇ、うああん、あーん」
「小鞠、大丈夫ごめんね。よしよし」
 安心させるようにぽんぽんと娘の背中を撫でてあやす。
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