離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 傷つくことを恐れて、黎人さんの気持ちも確認せずに、先手先手で逃げ回っていた。
 自分が先に決断を下す側じゃないと、何かが壊れてしまう気がしていたから。強くいられないと思っていたから。
 大事な決断をする時こそ、相手から目を逸らしてはならない。私はそれを、全く実行できていない。

 本当は、私との結婚生活を後悔しているかもしれない彼と向き合うことが、ずっとずっと怖かったんだ――。

 母に頭を預けて泣いていると、バッグの中でスマホが振動していることに気づいた。
 黎人さんからの電話だろうか。
 取るのが怖くてためらったけれど、向き合わなければ、前に進めない。
 私は意を決してスマホを取ると、予想通り黎人さんからの着信を確認した。そして、ゆっくりと通話ボタンをタップする。
『奥様のお電話ですか?』
「あなた、さっきの……」
 予想していた人の声ではないことに、私は大きなショックを受ける。
 なぜ、彼女が黎人さんのスマホから電話をかけているのだろうか。
 思わず切りたくなったけれど、彼女はとても焦った声で引き止めた。
『黎人さん、体調が悪くて今病院に運ばれているんです……!』
「え……?」
『すべて説明させて頂きたいので、森下(もりした)病院まで来て頂けないでしょうか』
 黎人さんが、病院に……? どうして……?
 でも、たしかに思い出してみればあの時、彼の足元はふらついていた気がする。
 激しく動揺しながらも、体は勝手に歩き出そうとしていた。
 怒りや悲しみや不安なんて、今、一気に消えてしまった。
 黎人さんに会いに行かなくては。今あるのは、そんなシンプルな感情だけ。
「すぐに行きます」
 私ははっきりとそう答えると、小鞠のことを母親に任せて、外に駆けだした。
 
 
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