離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 触れられただけで、ドキンドキンと高鳴る心臓に、ようやく素直になることを決めた。
 私はもう何も、隠さない。自分の気持ちに正直になりたい。
「お免状が取れたことを、第一に黎人さんに報告したくて、電話をかけました」
「……そうだったのか」
 大事な連絡を取れずにすまないと落ち込む黎人さんに、私は続けて話しかける。
「一人前の華道家になれたら……、黎人さんと同じ景色が見えるかもと思ったんです」
「え……?」
「たとえ愛がなくても、黎人さんと歩み寄りたい……。そう伝えようと、思っていました」
「花音……」
「黎人さんにとって、“恋愛感情”が邪魔であることは、お見合いの時から分かっていたのに……バカですね、私は」
 泣きそうになるのを必死に堪えながら、私は無理やり笑顔を見せた。
 黎人さんは、そんな私を見て数秒黙ってから、私の額に自分の額をゆっくり重ねた。
 彼の顔が目と鼻の先になり、より一層心臓が騒がしくなる。
 熱のこもった半月型の彼の瞳が、まっすぐに私のことだけを見つめている。
 全身の血が激しく駆け巡っているのを感じながら、彼の美しい形の唇から言葉が発せられるのを待った。
「お見合いの時に言った言葉が、ずっと花音を苦しめていたのか……?」
「いえ、そうではなくて、最初に黎人さんの考えを聞けたことはよかったんです。私がいつしか勝手に……」
「花音」
 チュッと、額に唇が柔らかく触れるのを感じた。
 驚き固まっていると、ドキドキする暇もないまま、更に真剣な瞳で見つめられ質問をされた。
「お前は今、何が欲しい? 誰が欲しい」
「え……?」
「俺が欲しいと言え、花音」
「れ、黎人さん……」
「最初から俺は、お前の“本音”にしか興味がないんだ……、ずっと」
 最後の言葉は力なく発せられた。だけど、その言葉を聞くのに、途方もない時間がかかったことが分かり、どうしてか涙腺が緩んでしまった。
 理由不明な涙がどんどん溢れて、景色を歪ませていく。
 今までずっと掛け違えたままだったボタンが今、ようやく噛み合った気がする。
 私は涙を指で拭ってから、黎人さんの顔を同じように照れ包み込み、震えた声でつぶやく。
「黎人さんが欲しい……。欲しいです……っ」
 その言葉を伝えた瞬間、呼吸が上手くできなくなった。
 後頭部に手を回され、惜しみなくキスを降らされる。
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