離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 私は必死に彼に応えようとするけれど、久々のキスに頭が追い付かない。
 ずっとすれ違い続けていた時間を埋めつくように、唇が触れ合う。
「れっ……、黎人さん……んっ」
「愛してる、花音」
 キスの合間にずっと聞きたかった言葉を囁かれ、体中が熱くなっていく。
 ――私たちは、最初は完璧な“仮面夫婦”だった。お互いに利益があると思って、結婚した。
 でもいつからか、仮面越しでは寂しいと感じるようになって、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
 あなたを好きだと思った日を辿るとしたら、それは、椿を髪に翳してもらったあの日からだったんだろう。
 本当の気持ちを伝えるまで、長い長い、月日が必要だった。
「黎人さん……、愛してます」
 言葉にしたら、簡単だった。あっけないほどに。
 黎人さんはそんな私の告白を聞いて、少しだけ照れ臭そうにしている。
 それから、冗談めかしく、こう続けたのだ。
「ここが病院なのがもどかしい……」
「キスの時点で、よろしくはないかと……」
 苦笑交じりにそう返すと、黎人さんは我慢したような声で「くそ」と子供のように小声でつぶやくと、私のことを苦しくなるくらいぎゅっと抱きしめた。
 その体温を知った時、ずっとずっと私が求めていたものはこれだったのだと、納得した。

 抱きしめられながら、そっと瞼を閉じると、椿の鮮やかな赤が浮かんでくる。
 花を持ったあなたが、無邪気に私の髪の毛に翳してくる。
 あの日から五年以上の時が経ってしまったけれど、私はあの時の自分と同じ気持ちで、彼に伝えたのだ。

「これからも、そばにいさせてください」

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