離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 付き合いたてのカップルじゃあるまいし、こんなことでドキドキしていることなんて、絶対に悟られたくないけれど、体が言うことを聞かない。
「花音」
 低い声で、耳元で名前を呼ばれただけなのに、全身が熱くなる。
 さっき、エレベーターの中で手を繋がれた瞬間から、黎人さんの思いは伝わっていた。
「もう、我慢できない」
「れ、黎人さん……」
「花音が欲しい」
 そう言われ、私は羞恥心と戦いながらもこくんと頷く。
 すると、突然黎人さんにお姫様抱っこをされ、景色がグルンと回転した。
 そのまま寝室まで運び込まれ、ドサッとベッドの上に寝かされた。
 目の前には、熱のこもった瞳で私を見つめている、美しい顔の黎人さんがいる。
 いつもポーカーフェイスなのに、珍しく余裕の無さが滲み出ている彼を見て、再びドクンと心臓が激しく動いた。
 そういえば、こういった行為をするのは、彼に初めて抱かれたあの日以来だ。
 少女のように硬直しながら黎人さんのことを見つめていると、少し弱ったような声で、ぽつりとつぶやく。
「花音に謝らなきゃいけないことが、たくさんある」
「謝らなきゃいけないこと……ですか?」
「結婚当初、冷たく当たって悪かった」
 まさか今、その話に触れられるとは思っていなかったので、私は驚き目を丸くする。
 黎人さんは、私から一切目を逸らさずに、当時の思いを言葉で伝えてくれる。
「あの時は、仕事で精一杯だったのもあったが、一番は、花音が俺と結婚させられることに何の躊躇いもなく従ってることが、妙に許せなくて……つい当たってしまったんだ」
「え……?」
「花音にはまだ、これからたくさんの未来があるのに、色んな可能性を捨てて俺と一緒にいていいのか、なぜ抗わないのか、諦めているのか……。花音の本音が見えなくて、ただただ不安だったんだ。関わり方が、分からなかった」
「そんなことを……思っていたんですか」
「“覚悟”して結婚するなんて、普通、おかしな話だろ」
 そう言って、少し悲しそうに笑う黎人さん。
 たしかに、私はそんなことをお見合いの時に彼に伝えた気がする。
 花と一緒に生きることができれば、他にもなにも望まないと……。そんな覚悟が、できていると。
「これから、時間をかけて償わせてくれ。小鞠と花音との時間を、何よりも大切にしたい」
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