離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 それでも、花音が出てくるのを大人しく待っていると、ようやく彼女の姿が見えた。
 ママ友らしき人達と出てきた花音は、ドアの近くで待っていた俺を見てぎょっとする。
「れ、黎人さんっ、こんな所でわざわざ待っていてくださったんですか」
「えっ、この人が旦那さんなの? イ、イケメンすぎない……?」
「花音ママ、何者……? 育ちがよさそうだなとは思っていたけど……」
 花音は慌てた様子でママ友達に何やら言い訳をして、俺の元へ寄ってきた。
 それから小声で「だから混乱させるって言ったじゃないですか!」と叱られた。
 いったい何に対して怒られているのかさっぱり分からなかったが、花音がここで築いてきた何かを壊してしまったんだろう。
 俺は彼女の友人たちにぺこっと頭を下げると、簡単に御礼だけ伝えた。
「いつも妻がお世話になっております。これからもよろしくお願いいたします」
「いっ、いえ、そんな! しっかりされてるから、花音ママにはいつも逆にお世話になりっぱなしで……!」
「旦那さん、お仕事芸能関係とかですか……?」
 予想もしなかった質問に、俺はまさかと笑って否定する。
 花音は焦った様子で「お騒がせしすみません! ではまた来週」と笑顔で伝えて、そそくさと車に戻ろうとする。
 花音に背中を押されて車の中に戻ると、彼女は後部座席でハァと大きなため息をついた。
「だから黎人さんが来るとザワつくとあれほど……。黎人さんは庶民オーラが皆無なことを自覚してください……」
「何だそれは……? 混乱させたのならすまない」
「いえ、大丈夫です。でも今度から何て説明しよう……」
 ぶつぶつと何かを唱えている花音。
 ひとまず謝罪したけれど、何に対して謝っているのか自分でもよく分かっていない。
 激怒しているというよりは困り果てた様子なので、今度からは車の中で大人しく待つことにしよう。
 そう思いながら、車を自宅へと走らせる。
 その間、俺はぐるぐると頭の中で仁の話を思い浮かべてしまった。
 いつ話を切り出そうか。
 早く相談することが最善なことは分かっているけれど、正直まだ俺の中でも気持ちが固まり切れていない。
 途中何度か体調が悪いのかと花音に心配されたけれど、俺は「大丈夫」とだけ返事をして、なるべくいつも通りに過ごした。
 花音達と離れたくない。けれど、それを理由に新しい仕事を諦めることも違う。
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