離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
「さっきのは、半分冗談で、ここから本題ね」
 こいつ、半分本気だったのか……。
 苛立ちながらも資料に目を通すと、そこには海外の新富裕層の情報が掲載されていた。
「海外での、若年層富裕層に向けた別荘兼セカンドハウスの企画について、今進行中だって兄さん言ってたよね?」
「在宅の仕事が今後中心になっていくだろうからな。うちのブランド力を使って、今後そっちにも力を入れたい」
「うちも、日本の文化を生かした別荘を、海外で展開したいと思ってる。それでいい話があって、今日ここに呼んだんだ。結論から言うけど、兄さん、もう一度アメリカに行かない?」
 仁の言う“いい話”がどれほど可能性のあるものなのかはまだ分からなかったが、こいつの下調べはいつもかなり徹底している。軽そうに見えて、俺よりも遥かに慎重なタイプだ。
 そんな仁が言うくらいだから、相当“固い話”なのだろう。
 でも、今度は本当に、戻ってくるまでどれほど時間がかかるか分からない。
「今すぐにとは言わないよ。でも、二年以内には逆算して動き出すべきだ」
「…………」
「迷ってる? 今までの兄さんなら即答したのにね」
 眉をハの字にして、こちらの様子を鑑みる仁。
 迷っているのは、図星だった。今までの俺なら、間違いなくやると即答しただろう。
 でも今は……、脳裏に花音と小鞠の顔が思い浮かんでしまう。
 もう二度と離したくないと、思っているから。
「花音に相談してもいいか。仁」
「もちろん。待ってるよ」
 そう言って、仁はニコッと笑みを浮かべる。
 俺は背もたれに背中をくっつけ、一度ふぅと息を吐いた。
 天秤にかけるようなことではない。だけど、選ばなくてはならない。
 俺は天井を見上げながら、花音にどう切り出そうか、考えあぐねていた。



 十七時になって、花音達を迎えに行く時間になった。
 俺は近くの駐車場に車を停めて、教室の前で二人が出てくるのを待っていた。
 ここに迎えに来るのは初めてのことだったけれど、カリキュラムはいったいどのようなものが組まれているのだろう。
 教室の外に掲示された授業内容を黙々と読んでいると、授業を終えた親子が次々に出てきた。
 じっと掲示物を凝視している俺が不審だったのだろうか。出てくる母親たちの視線をひしひしと感じて、少し居心地が悪くなってくる。
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