離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 後ろを振り返ると、そこには黎人さんに目元がそっくりな弟の仁さんがいた。
 彼と会ったのは結婚式以来だったので、私は慌ててペコッと頭を下げる。
「じ、仁さん、今日はお任せ頂きありがとうございます。よろしくお願いいたします……!」
「そんなかしこまんないでよー。年も近いことだし」
 スーツ姿に、ゆるいパーマをかけている仁さんは、黎人さんにそっくりな顔で爽やかな笑顔を浮かべている。
 顔の作りは似てるのに、何だか仁さんは“可愛い”印象が強い。不思議だ……。
 年は私の三つ上で、本来は仁さんと結婚する話が出ていた。
 しかし、仁さんは“結婚願望がない”とはっきり言い切ったので、兄である黎人さんに話が流れたという……。
 仁さんに対するイメージは、家のしきたりなんか気にせずに自分の意見を言える強い人だ、という印象が強い。
 緊張しながら挨拶する私に、仁さんは「折角だからあとでランチご馳走させて」と耳打ちしてきた。
「そ、そんな、お忙しいのに……」
「俺は兄さんみたいに忙しくないから気にしないで。それに、花音さんとちゃんと話してみたかったんだ」
「は、はぁ……。そんなに面白い話は持ち合わせていないですが……」
「ふふ、じゃあまた後でね」
 何だか犬みたいな人懐っこさがあるなあ……。
 仁さんはひらりと手を振って、旅館から出て行ってしまった。
 同じ兄弟なのに、こうも性格が真反対だとは……。
 でも、仁さんのおかげで、いい意味で少し体の力が抜けた。
「葉山さん、こちらです」
 私は気持ちを整え、上野さんに案内された場所に向かう。
 今日のイメージは、赤と黒。芯のある強さと美しさをテーマに、この旅館のように“変化し続けるかっこよさ”を再現したいと思っている。
 完成イメージを、現場を確認しながら集中して脳内で描いていく。
 配置の確認をしていると、アシスタントの女性スタッフが血相を変えてやってきた。
「か、花音さん、大変です! お花の発注が間違って通ってしまったみたいで、今日主役に使うラナンキュラスが届いていないようです……!」
「え……」
「どうしましょう……。何かありもので生けるか、構想を変えるか……」
「下準備をお願いしてもいいですか。上野さん、すみません、すぐに戻ってきますので」
 アシスタントの報告を聞いて、私は瞬時に頭の中を切り替えた。
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