離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 主役となる花がないことは、私の中で許されないこと。だったら、自分の足で何とかするしかない。
 戸惑うアシスタントに現場の準備を任せて、「必ず戻ってくるから、少し待っていて」と言って着物姿でロビーを駆け抜けた。
 外に出ると、私は外で電話をしていた誰かに思い切りぶつかってしまう。
「わっ、ごめんなさい……!」
「花音さん、どうしたの? そんなに急いで」
 仁さんはエントランス前で誰かと電話していたようで、スマホを持ったまま驚き私を見つめている。
 結構な勢いでぶつかってしまったので、私は深々と頭を下げて謝り、状況を説明した。
「これから納品ミスで届かなかった花を買い出しに行こうと思いまして……。この近くに、いつもお世話になっているお花屋さんがあるんです!」
「えっ、それで血相変えて向かおうとしてたの? 多少事前の打ち合わせと変わってしまっても、今あるお花でカバーしてもらえれば……」
「いえ、それはできません。百点以上じゃないと、ダメなんです」
 仁さんの言葉に、私は即答した。
 あまりにきっぱりと答えたせいか、仁さんは目を丸くしている。
 仁さんなりの優しさで言ってくれたことなんだろうけど、代わりの花で何とかするだなんて、私自身が納得いかないから。
「私、依頼してもらったからには、百パーセントの力で望みたいんです。花のエネルギーを感じてもらえるような、その日見たら一日忘れないような、そんな作品にしないとダメなんです」
「え……」
「お気遣いありがとうございます。それではまた後ほど」
 驚いたままの仁さんを置いて、私は丁度やって来たタクシーを停めて乗り込む。
 気持ちは驚くほど冷静で、私はタクシーに乗っている間に目星のある近場の花屋にひたすら電話をかけた。
 華道家としてまだそんなに実績のない私に任せてくれたんだから、全力で成し遂げたい。それが私の果たさなくてはならない義務だ。
 幸いにもそこまで珍しいお花ではなかったため、何軒か掻き集めて回れば何とか間に合いそうだった。
 そうして私はラナンキュラスを各お花屋さんで集め旅館に戻り、構想していた作品をギリギリの時間で完成させたのだった。  

 完成したお花を見上げると、自分のことが誇らしく思える。
 全てを出し切ったこの瞬間、私はいつもとても幸せだと思える。



 仁さんとのランチに、すっかり遅れてしまった。
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