離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 本当に黎人さんと正反対で、お茶目な人だなあと思っていると、黎人さんが私の手を握りしめた。
「花音、今日の作品を見せてくれ。小鞠も見たがってる」
「えっ、でもまだ話途中で……」
「仁が今日話したいことはもう終わっただろう」
 チラッと仁さんの方を見ると、笑顔で私に手を振っている。
 もう帰っても大丈夫ということなのかな。
 私は申し訳ない気持ちで会釈をすると、仁さんが最後にこんなことを言ってのけた。
「今日は楽しかったよ。花音さんみたいな人とだったら、結婚アリかもなって思えたし」
「えっ」
「あーあ、婚約相手譲ったの、惜しいことしたなー」
「またそんな冗談を……」
 苦笑しながらそう返したけれど、黎人さんが隣で鬼のような顔をしているので、私は慌てて部屋を出た。

 黎人さん、もしかしてやきもちを焼いてくれたんだろうか……。
 旅館に向かう途中で黎人さんの顔を覗き込んでみると、「あまり見ないでくれ」と拗ねたような声で制された。
 その反応があまりに愛おしくて、私は思わずプッと吹き出す。
「私、黎人さんが婚約者でよかったですよ」
「……そうか」
「あれ、顔が赤いですね」
「花音」
 それ以上からかわないでくれとでも言うように、黎人さんが少しだけ低い声で私の名前を呼んだ。
 それから、お客さんの邪魔にならないように、遠くから今日生けたお花を三人で見た。
「まま、おはなー」
「うん、お花綺麗だねえ」
 小鞠の手をぎゅっと握りしめながら、旅館の中で凛と咲き誇るお花を見つめる。
 あのお花には、私の誇りと魂の全てが詰まっている。
「綺麗だな」
「ありがとうございます」
 横で静かに褒めてくれる夫に少し寄り添いながら、私は胸の中に広がっていく温かな気持ちを、これからもずっと大事にしようと思った。
 たとえ遠く離れても、私たちはきっと大丈夫。
 黎人さんが大切にしたいものは、私が大切にしたいものだから。
 そう思っていることが、あなたに全部伝わればいい。私の本当の気持ちが、全部。

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