離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 赤面しながら俯くと、小鞠は「まんま」と言って、私の髪の毛を引っ張ってくる。
 黎人さんはそんな小鞠の行動をやんわりと制しながら、真剣な瞳で私を見つめて言い放った。
「この一週間ずっと考えていたが、今気持ちがハッキリした。……一年後、また海外に長期間仕事に行かせてもらうことになると思う」
「はい、もちろんです」
「……待っていて、くれるか」
「当たり前じゃないですか」
 眉をハの字に下げて笑いながらそう返すと、黎人さんはほっとしたような表情をして、私の肩を抱き寄せる。
 それから、耳元で甘く優しく囁いてくれた。
「それまでの一年間、一緒に過ごす時間を沢山つくろう」
 その言葉に、私はうんと大きく頷いて、笑顔を返す。
 すっかり二人きりの空気になってしまっていたけれど、向かい側から感じる乾いた視線にハッとした。
「俺、今何を見せられてるんだろうな……」
「じ、仁さんすみません! ほら黎人さん離れてっ」
 慌てて黎人さんの体を押し返すと、彼はつまらなさそうな顔をして、仁さんのことを睨みつける。
「仁。勝手に人の妻を食事に誘って、しかも仕事のことも口を滑らせるとはな……」
「兄さん、それは本当にごめん。でも結果としては花音さんの本音聞けてよかったじゃん? ていうか小鞠ちゃん、いつの間にか大きくなってるー!」
「おい、話を逸らすなよ」
 仁さんは「抱っこさせて」と小鞠に手を伸ばし、嬉しそうに抱き上げてくれた。小鞠もキャッキャと楽しそうにしている。
 結婚願望はないと言っていたけれど、子供は好きなんだ。いいお父さんになりそうなのになあ……。仁さんが婚活市場に現れたら、申し込みが殺到して争いまで起きてしまいそうだ。
 なんて思いながら、仁さんと小鞠を微笑ましく見守っていると、黎人さんが真剣な声で突然問いかけてきた。
「花音、仁に何か変なことはされなかったか」
「えっ、まさか! むしろ私の怒声を浴びせてしまい申し訳ない思いで……」
「花音さん、また一緒にランチしようね」
 仁さんが会話に割り込んできた瞬間、黎人さんの機嫌が一瞬で悪くなったのを感じた。
 普段はそんなに仲が悪い印象はないのに、いったいどうしたというのか……。
 困惑していると、仁さんは「冗談だよ」と言ってから、「半分はね」と付け足した。
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