俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
花咲くとき
年度末はいつだって忙しい。去年も一昨年も忙しかったけれど、今年も例に漏れず忙しい。年度の変わり目というのは、物事が刷新されることが多いのだ。例えば職制が変わったり、異動があったり。

派遣社員である西村奈々の所属する課に、この四月から新たに一人配属されることが決まっていた。課の庶務業務全般を担当している奈々は、異動に関わる手続きや準備に追われる。パソコンの接続申請やチーム名簿の見直し、はたまたロッカーの手配まで、異動してきて困らないようにと準備することはたくさんあるのだ。

事前に手配しておくもの、異動後に手続きするもの等、それは多岐にわたる。仕事以外の生活面、ゴミ箱の場所やプリンターの場所、ポットの使用ルール等、伝えることはたくさんある。それらを三月中に全て準備した上で、他の業務にも追われ、気づけばあっという間に四月を迎えていた。

執務フロアがそわそわとしている。異動してくる人物に興味津々なのだ。これが平社員の異動ならこんなにそわそわすることはない。今回の異動はいつもと少し違う。なぜなら社長の御子息が異動してくるからである。この人事異動の発表がされたときから、奈々の周りのざわつきは半端なかった。
始業のチャイム後、課長の号令と共に課員が集まる。

「あれが噂の……」

「うん……」

「めっちゃかっこいいじゃん!」

朋子が奈々にそっと耳打ちした。
確かに背が高くスラッとしていてスーツがよく似合う。通った鼻筋と切れ長の目は整った顔立ちを引き立たせていた。

「このたび生産管理課に配属になりました、倉瀬祐吾です」

低く落ち着いた声がフロア内に響き渡る。自然と背筋が伸びるようなそんな雰囲気に、奈々は妙な懐かしさを覚えていた。

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