王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
「謝罪の必要はないよ、君は被害者だ。我が国の騎士団長の機敏さと判断力で大事にはならなかったんだし、気にしなくていいんだ」
やはり王太子殿下は心が広い。子供が馬車の前に飛び出ただけで切り捨て御免にするような、狭量な貴人ではないのだ。
「ありがとうございます」
再度礼を取ると、王太子殿下はにこっと微笑む。シルディーヌを見つめる瞳はとても穏やかで、疲れは微塵も見えない。
いつもの豪華な衣装ではなく、簡素な旅装束姿。それでも気品と威厳は変わらずに、とても素敵だ。
──眼福だわ……。
「それで、ケガはないのかい?」
「はい、どこにもありません」
「よかった。でも、念のために医官に診てもらったほうがいいな。君は特に、大事にしないといけない。見えないところに痣があったら大変だ」
殿下がスッと手をあげると、従者が心得たように頷いて宮殿の中に向かう。
「手配するから、少し待っていてくれ」
普通ならば、チラッとも姿を見ることができないのに、とんだハプニングのおかげで対面はおろか言葉を交わすことまでできている。
しかも体の心配までしてくれるなんて!