王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
尋問室の中とはいえ、騎士団長も王太子殿下までもが黒龍殿の中にいるのだ。殿下付きの従者も控えている筈だ。
「もちろん、玄関から堂々と。団長がいるから、安心しきっているのよね。誰にも会わずに、楽にここまで上がってこられたわ」
「うそよ。そんな筈がないわ」
「まあ、少しは細工させてもらったけど。楽だったことは確かだわ」
「……細工って?」
「私の特技は催眠術。玄関で暇そうに立っている警備なんて、簡単に暗示にかかるわよ」
クスクス笑うカメリアと無表情のガスパルが近づいてくる。にわかに危険を覚ったシルディーヌは、ソファから立ち上がって後ずさりをした。
暗示にかけるのが得意だなんて、単純なシルディーヌもすぐに術に嵌ってしまいそうだ。どうやるのか不明だから、とにかく逃げなければならない。
「なんの用なの? 入っても、出るのは簡単じゃないと思うわ」
「分かってるわ。でもあなたがいるから平気よ。あなたは、黒龍の騎士団長の唯一の弱点よね。人質にすれば、彼を意のままにできる。そうすればここから出るのも、国から出るのさえも簡単よ」