王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-

「カメリア、この声は王太子殿下です。それに……騎士団長もいます」

「なんですって!? でも姿がないわよ!!」

 廊下には人の姿がない。けれど声が聞こえてくるし、ガスパルはアルフレッドが間近にいるという。

 なんとも謎めいた現象に逃げるのを忘れたのか、カメリアは壊れたダンスドールのように、あちらこちらを見回している。

 その間にも声は聞こえてきていた。

「へぇ、傭兵として売るわけか。鬼神の団長なら高値になりそうだ。どうする? 騎士団長」

「人に買われる趣味はない」

 ──アルフの声だわ!

 名前を呼びたいけれど、口に挟まった布が邪魔をしてできない。切なくて、じわっと涙が滲む。

 くすんくすんと鼻を鳴らして、ハッとする。ガスパルの手の震えが激しくなっていて、徐々に拘束が弱まってきている。

 泣いている場合じゃない、機会をとらえて逃げなければ!

 ガスパルの腕がふと離れた一瞬に、シルディーヌは腕の輪から抜けて駆けだした……が、エプロンの腰紐がグッと引かれて、すてんと、しりもちをついてしまう。

「むぐぐぐ(いたたた)……」

「逃がさないよ。あなたがいないと、ここから逃げ出せないから」

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