王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-

 布の下から出てきたアルフレッドがスーッと剣を構えると、カメリアの腕が目に見えてぶるぶると震え出した。

「いっ、いいわっ、こうなったら、せめて、大事なものに傷をつけてやるから!」

 ナイフを握ってぶるぶる震える腕を、ガスパルがワシッと掴んだ。

「カメリア、やめましょう。どうしたって鬼神には勝てそうにない。逃げるが良策です。この場合、人質はこう使うんです。ほら! 団長、受け取れ!」

 ガシッと抱えられたシルディーヌの体が、あろうことか、ひゅーんと放り投げられた。

「きゃぁっ」

 天井近くまで飛んだシルディーヌの目に、ガスパルとカメリアが脱兎のごとく駆けだした姿と、アルフレッドが自分を見上げている様が映った。

「副団長、ふたりを捕らえよ!」

 王太子殿下の命令が響く中、落下していくシルディーヌの体はアルフレッドの腕にしっかりと受け止められた。

「飛ぶお前を抱きとめるのは、これで二度目だな」

「アルフっ、怖かった、怖かったのっ」

 正確に言えば飛ぶのは三度目。全部アルフレッドに救われている。でも、こんな目に遭うのは、もうごめんだ。

 逞しい腕に抱かれれば、緊張が解けて目に涙が滲む。

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