王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
「わかった。分かったから泣くな。どこか痛いところはないか」
「ないわ。ちょっと心が痛いけど」
「なんだと! 心が痛いとはどういうことだ!?」
「だって、アルフが『やってみろ』なんて言うんだの。怖かったし、見捨てられたみたいで、心が傷付いたわ」
「む……そうか。それは、悪かった」
「それに、目の前で血が流れるのを見るのも、残酷で怖いわ」
「お前を助けるためだ、そこは目を瞑っとけ。そうすれば見えない」
「……そういう問題じゃないわ」
「ふん、とにかく無事でよかった」
少しバツが悪そうなアルフレッドにそっと床に下ろされたシルディーヌは、そのまま彼の腕の中に収まっている。
アルフレッドの手のひらはシルディーヌの心から恐怖を追い出すように、背中を優しく擦っていた。
コホンと咳払いのようなものが聞こえたのは、数秒後。
「あー、騎士団長殿。そろそろ話しかけてもいいかい?」
王太子殿下の声がして、ハッとした様子のアルフレッドはシルディーヌから手を離し、向き直って貴人に礼を取る。シルディーヌも慌てて彼に倣った。
「殿下。失礼いたしました」
「この後は団長に指揮権を譲る。報告を頼むよ」