初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
「…電話した」
「まじか!」
「いいじゃん航太、進歩進歩」
「で、どんな話したのー?」
「向こうが演劇部でやってる芝居について、相談受けた」
「わあ、頼りにされてんじゃんリーダー」
「相談内容は?」
「ラストシーンの演出で2パターン案があって、どっちがいいかって」
「で、航太はなんて答えたの?」



一瞬、航太は言い澱む。
本当にそのままの真実を言ってもいいものかどうか。
しかし、嘘をつく必要性もまた、なかった。
だから航太はそのままを言おうとまた口を開く。



「…俺の意見で決めていいの?その芝居作ってるのは茜さんたちでしょ?って返した」



その瞬間、控室は水を打ったような静けさに包まれた。
聞こえないはずの沈黙で、航太は耳が痛くなるような感覚を覚える。



「はぁ!?」



沈黙を打ち破ったのは、一仁の声だった。
それがきっかけとなって、暁と琉星も我に返り一仁に続く。



「バッカじゃないの?」
「ないわ」



明確な非難が含まれたその言葉に、航太もさすがに眉間にしわを寄せて怪訝な表情を浮かべる。



「…んだよ」
「そういう時は、もっと優しく返しなよー」
「いやそう思ったけど、芝居のことだし、向こうが真剣に聞いてくれたから、真剣に返したんだよ」



航太の言葉に、3人は何とも言えない表情を浮かべて、ただ航太を見つめていた。
それまでにぎやかだった控室は、途端に静まり返った。



「…やっぱ“芝居お化け”だな、リーダーって」
「メンバーとして一緒にいると忘れちゃうけど、そうだったよね」
「ま、それが航太だよね」
「おい待て、どういう意味だそれ」



各々仕方がないという風ではあるが、納得した様子でこの話を終わらせようとする3人に、航太は思わず突っ込んだ。



「まあ、航太の発言がどう転ぶかは分からないけど、縁があれば切れないでしょ」
「…だといいけどな」
「もし振られたら失恋パーティー開いてあげるね、リーダー」
「ヤケ酒だ、ヤケ酒」
「不吉なこと言うの止めろよ…」



若干口の端を引きつらせながらそう言う航太だったが、メンバーとこの件に関して話したことで少し気が晴れたので、心の中でお礼を言った。
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