初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで
茜がおもむろに窓の外に目をやると、その視線の先には海が広がっていて、やはり太陽の光を反射して煌めいている。
「素敵なお店ですね」
「そう言ってもらえて、よかったです」
「どうやってこのお店知ったんですか?」
「前に、自分たちの番組で、カフェメニュー開発対決をやったことがあって、その時に協力してくれたのが、さっきの橘さんなんです」
「あ、それ、見た記憶あります」
「マジすか」
「たしか、ぶっちぎりで暁さんと一仁さんのペアが勝った記憶が…」
「そう、正解」
「あれ、暁さんと一仁さんっていう組み合わせがずるいですよね」
「だよね。あ、メニュー選びましょうか」
「あ、そうですね」
2人がメニューを開くと、パスタやピッツァ、パンケーキなどのメニューが並んでいて、女子はこういうの好きだよなぁと、茜は頭の片隅で考えた。
航太と話をしながら、パスタとピッツァを分けて食べようということになり、ペンネアラビアータとビスマルクをそれぞれ選んだ。
と、航太は茜がメニューのある一か所をじっと強く見つめているのに気付いた。
「…それ、頼みますか?」
「え?」
「頼みましょうか」
それは、『ブッラータ』というメニューだった。
ブッラータとはフレッシュチーズの一種で、野菜やフルーツと一緒に食べるスタイルのようだった。
タイミングよく、橘がお冷を持って注文を聞きにやってきたので、2人は先程決めたメニューを注文し、デザートと飲み物はまた後でということになった。
橘が去った後、室内には一瞬静けさが訪れた。
聞こえてくるのは、窓越しにさえずる鳥の声と、遠くに聞こえる車のエンジン音だけだ。
「…つかぬことをお聞きしますが…」
「はい?」
「もしかして今日、貸し切り…?」
「あ、そうです」
入店した時から他の客の気配がなく、もしやとは思っていたが、航太の返答にようやく茜はほっとした。
「マスコミもそうですけど、今やスマホですぐSNSにアップされちゃいますからね」
「そうなんですよ。まあ、俺は慣れてるからまだいいんですけど、茜さんをそれに巻き込んじゃうのは申し訳ないんで…」
「すみません、お気遣いいただいて」
「いえ、誘ったのこっちなんで。あ、橘さんは信頼できるんで、大丈夫ですよ」
「はい」
茜の緊張感が取れた笑顔に、航太もようやく不安が薄らいだ。
「あ、そうだ航太さん」
「はい?」
「その…さっきなんで私が『ブッラータ』食べたいって分かったんですか?」
純粋に疑問の眼を向けてくる茜に、航太は一瞬止まり、それからふわりと笑みを零す。
「茜さん、『ブッラータ』のところをガン見してたから」
「え、そんなガン見してました?」
「はい。…前にお芝居した時も思ってましたけど、茜さんの眼って…雄弁ですよね」
「え?」
「何て言うのかな…、言葉がなくても、すごく気持ちが伝わってくるんです。俺、今までたくさんの人と芝居を作ってきたけど、あんなに雄弁な人、茜さんが初めてでした」
茜は目をパチパチさせて、きょとんとした顔を航太に向けた。
航太の言葉が彼女の中でうまく咀嚼できていないのか、しばらくその表情で茜は航太を見つめ続けた。
「初めて…言われました」
「え、うそ」
「いや、本当です」
「じゃあ、俺しか知らないんだね、それ」
その航太の言葉に、茜の心臓は大きく鼓動する。
目の前の航太は、少年のような笑顔を浮かべて自分を見ていて、なんだかそれが気恥ずかしくて、茜は思わず俯いてしまう。
同時に、自分に言い聞かせる。勘違いするな、と。
「…プロの方にそう言っていただけて、光栄です」
茜が絞り出すことができた言葉を聞きながら、俯いていても分かる茜の頬の赤さに、航太は満足げに笑顔を浮かべた。
「素敵なお店ですね」
「そう言ってもらえて、よかったです」
「どうやってこのお店知ったんですか?」
「前に、自分たちの番組で、カフェメニュー開発対決をやったことがあって、その時に協力してくれたのが、さっきの橘さんなんです」
「あ、それ、見た記憶あります」
「マジすか」
「たしか、ぶっちぎりで暁さんと一仁さんのペアが勝った記憶が…」
「そう、正解」
「あれ、暁さんと一仁さんっていう組み合わせがずるいですよね」
「だよね。あ、メニュー選びましょうか」
「あ、そうですね」
2人がメニューを開くと、パスタやピッツァ、パンケーキなどのメニューが並んでいて、女子はこういうの好きだよなぁと、茜は頭の片隅で考えた。
航太と話をしながら、パスタとピッツァを分けて食べようということになり、ペンネアラビアータとビスマルクをそれぞれ選んだ。
と、航太は茜がメニューのある一か所をじっと強く見つめているのに気付いた。
「…それ、頼みますか?」
「え?」
「頼みましょうか」
それは、『ブッラータ』というメニューだった。
ブッラータとはフレッシュチーズの一種で、野菜やフルーツと一緒に食べるスタイルのようだった。
タイミングよく、橘がお冷を持って注文を聞きにやってきたので、2人は先程決めたメニューを注文し、デザートと飲み物はまた後でということになった。
橘が去った後、室内には一瞬静けさが訪れた。
聞こえてくるのは、窓越しにさえずる鳥の声と、遠くに聞こえる車のエンジン音だけだ。
「…つかぬことをお聞きしますが…」
「はい?」
「もしかして今日、貸し切り…?」
「あ、そうです」
入店した時から他の客の気配がなく、もしやとは思っていたが、航太の返答にようやく茜はほっとした。
「マスコミもそうですけど、今やスマホですぐSNSにアップされちゃいますからね」
「そうなんですよ。まあ、俺は慣れてるからまだいいんですけど、茜さんをそれに巻き込んじゃうのは申し訳ないんで…」
「すみません、お気遣いいただいて」
「いえ、誘ったのこっちなんで。あ、橘さんは信頼できるんで、大丈夫ですよ」
「はい」
茜の緊張感が取れた笑顔に、航太もようやく不安が薄らいだ。
「あ、そうだ航太さん」
「はい?」
「その…さっきなんで私が『ブッラータ』食べたいって分かったんですか?」
純粋に疑問の眼を向けてくる茜に、航太は一瞬止まり、それからふわりと笑みを零す。
「茜さん、『ブッラータ』のところをガン見してたから」
「え、そんなガン見してました?」
「はい。…前にお芝居した時も思ってましたけど、茜さんの眼って…雄弁ですよね」
「え?」
「何て言うのかな…、言葉がなくても、すごく気持ちが伝わってくるんです。俺、今までたくさんの人と芝居を作ってきたけど、あんなに雄弁な人、茜さんが初めてでした」
茜は目をパチパチさせて、きょとんとした顔を航太に向けた。
航太の言葉が彼女の中でうまく咀嚼できていないのか、しばらくその表情で茜は航太を見つめ続けた。
「初めて…言われました」
「え、うそ」
「いや、本当です」
「じゃあ、俺しか知らないんだね、それ」
その航太の言葉に、茜の心臓は大きく鼓動する。
目の前の航太は、少年のような笑顔を浮かべて自分を見ていて、なんだかそれが気恥ずかしくて、茜は思わず俯いてしまう。
同時に、自分に言い聞かせる。勘違いするな、と。
「…プロの方にそう言っていただけて、光栄です」
茜が絞り出すことができた言葉を聞きながら、俯いていても分かる茜の頬の赤さに、航太は満足げに笑顔を浮かべた。