虹色のキャンバスに白い虹を描こう
乗客が次々とバスを降車していく。その流れに逆らうことなく外に出れば、相変わらず周囲一帯は針葉樹の緑が広がっていた。
「空気が澄んでますね!」
長時間の移動を終えた解放感からか、清は体を伸ばしながら満足げだ。
近江さんは片目を瞑って空を見上げていた。白虹の条件を品定めしているのだろう。
「今日は見えそうですか」
「いやあ……どうかな。これに関しては運も必要だからね。とりあえず、もう少し奥に行ってみよう」
大抵の観光客はこのまま奥の山頂へと向かうようだった。近江さんの後に続いて、傾斜を進んでいく。
観光スポットになっていることもあり、道自体は非常に丁寧に整備されていた。途中の分かれ道で本格的に登山を目的とする集団が逸れていき、比較的軽装な人たちが残る。
「わ、すごい」
十五分ほど歩くと、かなり見晴らしの良い開けた場所についた。遠くに山脈が見える。雄大な景色を背景に写真撮影に励む人の姿が見受けられた。
「虹は……ないですね」
「うーんそうだね、いま見る限りだと。まあもう少し待ってみようか。ほら、いい眺めだ」
近江さんが両腕を目一杯広げて、肺に空気を取り込むように息を吸う。隣に立ってそれを真似しようとした清が、「あっ」と声を上げた。
「あのブランコ何ですか? 楽しそう!」