虹色のキャンバスに白い虹を描こう
一つ目のスケッチは、すぐそばで咲いている小花だった。
それを描き終えて満足そうにしている彼女に「はい次」と促せば、愕然とした様子で僕を見つめてくる瞳に出会う。
「え、あの……もっとこう、これに対するアドバイスとか」
「基礎もなってないのに口のきき方は一人前だね」
「はい、すみませんでしたっ!」
その後も二回ほど対象を変えてスケッチを終え、彼女が僕の顔色を窺うように視線を寄越してきたので、仕方なく腰を上げた。
彼女のスケッチブックを覗き込み、握られていた鉛筆を掻っ攫う。
「え、わ、航先輩?」
目の前の木を描いていたらしい。やはり描きこみが足りないし、線の流れも単調だ。
そのスケッチに、無断で線を加えていく。影を入れて濃淡を分かりやすく、それから線を重ねて立体的に。
これくらいでいいか、と適当に切り上げ、鉛筆を再び彼女に無言で返した。
「す、すご……すごいです……」
たったいま僕の線が描き足されたスケッチにまじまじと目を凝らし、彼女が感嘆の息を漏らす。腕を伸ばして遠くから眺めたり、かと思えば顔に近付けて細部を舐めるように観察したりと、動きだけで忙しない。
「私、あんなに時間かかったのに……航先輩がちょっと描いただけで全然違う……」