虹色のキャンバスに白い虹を描こう
どことなく自身の非力さに落胆しているような響きを含んでいる。
咄嗟に口を開いたのは、完全に無意識だった。
「当たり前でしょ。僕は君のに軽く描き足しただけなんだから」
「でも、」
「経験もないのに最初から上手く描けるわけがない。君は『下手』なんじゃなくて『普通』なだけだよ」
事実だった。彼女は本当に、ただの凡庸な美術部員だ。それこそ、どこにでも、いくらでもいるような。
隣からの反応がない。やけに静かな空間に気味悪さを覚えて彼女の方に顔を向けると、くっきりとした目を見開き、僕を凝視する彼女の姿があった。
「航先輩に褒められた……」
「褒めてない」
「あ、私のこと、清って呼んで下さい! その方が嬉しいです!」
「絶対嫌だ」
一体、どこまでポジティブな思考を持ち合わせているのか。
しつこく食い下がってくる彼女に、わざとらしく声色を取り繕って「美波さん」と呼んでやると、あからさまに不服そうな顔をされた。
「なんかそれ、馬鹿にされてる感じがするから嫌です」
「被害妄想じゃない?」
「初めて会った時もそういう顔してましたよね、爽やか好青年みたいな」