クールなあなたの愛なんて信じない…愛のない結婚は遠慮します!


梓たち親子が住んでいるのは、マンションとは言え古いタイプだ。
航のマンションの様にコンシェルジュがいる訳でもオートロックでもない。
至って普通の建物で、娘がここに住んでいるかと思うと少し心配になってくる。

『YASHIRO』と表札のかかった4階の部屋の前に立ち、
深呼吸をしてからチャイムを鳴らした。

『はい?』

「美馬だ。」

少しの沈黙のあと、玄関が開いた。

「どうしたの、今日は忙しい日でしょ。」

素っ気なく梓が言うが、その後ろに美晴が立っているのが見えた。

「美晴ちゃん、こんばんは。お土産買ってきた。」
「わあ~! 美馬のおじさん、ありがとう!」

梓の横をすり抜けるように美馬の前に立つと、美晴は紙袋を受け取った。

「もしかして、ケーキ?」
「そうだよ。よくわかったね。」

「美晴、ケーキ大好きなのお~!」

どれほど嬉しいのか、美晴の大きな声だけでもよくわかる。

『ああ、これか…』

マーレーが言っていた、好きな物を受け取った時の子供の弾ける笑顔。
この前のプレゼントの時とは、表情が全然違っている。

高価なおもちゃでなくても、喜んでくれるんだ。

美晴が紙袋を持って奥に入った後、航は梓に謝った。

「すまなかった、梓。」


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