目覚めたら初恋の人の妻だった。

妻の苦悩 夫の苦痛 一那 said 2

「もう生きていたくない」
俺が握っていた手を振りほどき、柚菜は確かにそう口にした。

それは身体が痛くて辛いからか?
そうじゃない・・・柚菜はそんな事では口にしない・・

事故に遭う朝、柚菜は何時もと変わらない様子だった。
出掛けに柚菜を抱きしめてキスをした時も、少し照れていたけれど
ちゃんと俺の背中に腕をまわしてくれていた。

仕事で何かあったのかと事故の後に事務所の人に事故の報告と現状の説明の為に
連絡をしたところ、事務所では何時もと同じように仕事をして、
少し残業してから帰宅したと聞かされた。
柚菜が事故にあったのは21時過ぎ・・・しかも家とは
真逆の方向にタクシーを走らせていた。
運転手の話だと、横浜に向かっていたと・・何故家とは反対の横浜に?
そして運転手は柚菜は乗ってからズーと泣いていたと・・・
一体、仕事を終えてから何があった???
この時、そこで説明を受けた誰もが聞き洩らした
”何処から乗車したかを”
一番、大事な事を聴き忘れた事で更に大事な柚菜を追い込む事になるなんて
この時に戻れたら自分を叱り飛ばしたい。


そして、今 確かに「死にたい」と口にした。
生まれた時から知っている柚菜。
頑張り屋の彼女が”死にたい”と口にするなんて
俺だけじゃない、誰もが想像出来ない。
それほど柚菜を追い詰める何かがあった・・・
それに、どうして一番俺達にとって大事な時期の記憶を失くしているのか・・
それを考えるのが怖い自分が居る。
今、振りほどかれた手に自分の足元をガラガラと壊されていく感覚に
恐怖で崩れ落ちそうになる。
又、柚菜を失うかも知れない。
胃が痛くなり、文字通り血を吐く寸前まで追い込まれた、あの苦しみには
耐えられない。
柚菜を失わないで済むのならば、どんな犠牲でも払おう。
だから、神様 どうか俺から柚菜を奪わないでくれ。
< 14 / 100 >

この作品をシェア

pagetop