社長、それは忘れて下さい!?
 だが今日は違う。まだそこまで遅い時間ではないし、今なら社長専用車の手配も出来る。涼花としては、龍悟には家まで送ってもらうより真っ直ぐ自宅へ帰ってもらう方が何倍も有難かった。

「綺麗だな」

 口で説明するより今すぐ車を手配してしまったほうが早くて確実かと考えていると、ふと声を掛けられた。顔を上げると、龍悟が涼花の顔をじっと見つめている。

「夜景ですか? そうですね、この時間にこの高さから見ると……」
「夜景じゃない」

 普段は陽が沈む頃には西日を避けてブラインドを閉じてしまうので、夜景を眺めることはあまりない。二十八階から眺める光の海はさぞ綺麗だろうと窓の外に視線を移そうとするが、龍悟はそれを遮るように涼花の台詞を奪った。

 視線を戻すと、いつの間にか龍悟との距離が縮まり、真剣な眼差しで見つめられている。

「前に言っただろう。俺のために笑えと」
「……え?」
「今日はよく笑ってたな」

 話がよく飛ぶ。
 送迎の話をしていたと思ったら夜景の話になり、今度は涼花の笑顔の話だ。何の話をしているのかも、次に何を言われるのかも分からず、龍悟の目を見つめたまま動きを止めてしまう。

 また合コンの話をされるのかと思うと、頬が引きつってしまう気がした。

「俺の言った通りだろう? お前がちょっと笑顔を見せてやれば、男共はすぐ落ちる」

 龍悟は合コンの話はしなかったが、その言葉は涼花の予想とも全くかけ離れていた。
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