社長、それは忘れて下さい!?
 つい首を傾げてしまう。言った通りだろう、と言われても。

「えっと……何の話でしょうか?」
「そうだな。今日お前に言い寄った男の数が三人。息子を勧められた数が二人……で合ってるな?」
「!? か、数えてらしたんですか……? というより、見てらっしゃったんです?」
「あぁ、見ていた……ずっと」

 涼花はずっと、会場内で龍悟に姿を探されていた。基本的には傍に付き従っていたが、取引先の役員達の思惑を感知すると彼の傍から離れるよう心掛けていた。そのせいで龍悟に不便を掛けたのならば、自分は秘書失格だと焦ってしまう。

「……何でだろうな」

 龍悟がふと、疑問のような困惑のような台詞を呟く。涼花に向けてなのか、自分に向けてなのかわからない問いかけ。

「俺が笑えと言ったはずなのに、他の男に笑いかけてるのを見るのは面白くない」
「……え?」

 熱を含んだ視線と声で告げられ、涼花は全身が燃焼する気配を感じた。

 以前合コンに行くのを嫌がる素振りを見せた時と同じ、涼花の行動を律しているようでいて、誰でもない誰かを羨むような口振り。まるで嫉妬のような、少しの怒りの炎を孕んだ瞳の色。

 ――この熱は危険だ。
 あの日と同じように勘違いしてしまう。期待しそうになってしまう。

 きっと赤くなっているだろう顔を見られないよう俯くと、さらに距離を詰められる。そのまま近付いた龍悟の唇が、そっと涼花の耳元に寄った。

「お前は笑うと可愛いよ」
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