社長、それは忘れて下さい!?

「なにそれ、ミステリー……」
「あの……、このことは誰にも……」
「言わないよ。っていうか言っても信じないでしょ、普通」
「ですよね」

 恐縮した涼花の顔を見て、旭は妙に納得したように『そっかぁ』と頷いた。

 涼花としては現実的にありえない話をしたので引かれてしまうかもしれないと思っていたが、ここ最近の様子やこれまでの経緯から、旭にも何か思うところがあったらしい。涼花の話は思いの外すんなりと受け入れられた。

「なるほど。そういう事か」
「な、何がですか?」

 旭が気の抜けたような声を出したので、持ち上げかけたビールグラスを置いて、思わず聞き返してしまう。

「いや、先々週の契約の時に、涼花なんで突然笑ったんだろうって思ってて。結果的に契約は上手くいったし、社長がグレてた理由もすぐわかったけど、涼花の心境の変化だけはずーっと謎だったんだよね。そっか、あれは『社長命令』だったのか」
「……」
「ん? じゃあ社長は自分の出した命令に従った涼花に、妬いてたわけだ? 面倒くさいな、あの人」

 ストレートに自分の上司を『面倒くさい』呼ばわりした事に『そうですね』とは言えない。でも旭の言いたいこともわかる。

 龍悟は仕事をする上で戦略的に自分の内心を隠すことはあるが、本来は裏表のない人間だ。親しい人に嘘や隠し事はしない人だから、一緒に仕事をしていて信頼できるしその背中についていこうと思える。
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